うちらのおとんは冒険家――やった。なんで過去形かって? 消息不明になってもう15年。ええ加減なおとんやった。苦労するのはいつもおかんばっかり。それでもおかんは必死に働いてうちと妹を大学まで行かせてくれた。
けど、無理がたたったんやな。半年ぐらい前から過労で入院して、そのまんまあっさり逝ってもうた。
「――誰のせい、なんやろな。」
葬式とかの準備をしながら独り言のつもりで溜息吐きながら言うてた。したら妹に聞こえてたらしくて、
「そんなん、おとんのせいに決まっとるやん。あんなおとん、おってもおらんでも迷惑や。」
妹の方はおとんの記憶がほとんどない。憎しみしかないんやろな、とうちは思う。けど、おとんはそないに悪い人ではなかった。旅に出ては珍しい土産持って帰ってきてくれてたし――。
「まぁせやけどアレやな、葬式言うてもめんどいだけやな。うちらクリスチャンやから仏教のことわからへんし。」
「おかん、なんでうちらのことミッションスクールに入れたんやろな。仏教徒やのに。」
妹と2人、ぶつぶつ言いながら坊さんに言われるままに葬式やら初七日やら四十九日やら、なんやようわからんこと盛りだくさんで、おかんが死んだ哀しみも何もなかった。
「姉ちゃん、そろそろ遺品の整理とかしなあかんのちゃう?」
あぁもう、ほんまめんどくさい! 実の母親が死んどいて言うのも何やけど、なんもかんもめんどくさい! ちゅーても、やらんわけにもいかんし。
「うん、まぁ、ええ加減やらなあかんわな。おかん、なんでもかんでも置いてあるからしんどいで。」
「わかるわー、捨てられへん病気やわおかん。おとんのことも捨てられへんかっただけちゃうんかいな。」
「はぁー――おとんの悪口は置いといてやな、とりあえずデパートの紙袋やら何やら、どう考えても要らんモンほかしてから要るモン要らんモン分けるで。」
「せやな。」
うちらは無言で押入れの中身をがさごそ漁る。ほんまに要らんモンばっかりでうんざり――してきた頃に、奥の方に大事そうに隠してあった宝石箱を見つけた。
「――なんやこれ?」
「開けてみる?」
「まぁ開けてみんことには何入っとるかわからんしな。」
宝石箱の中身は、紫水晶と、おとんからの手紙やった。
手紙の内容は、お遍路参りをすることでかけがえのない財宝を手に入れることができる――いくらうちらがクリスチャンでも騙されへんわ、そない言いたくなるようなアホらしいモンやった。
うちも妹も半信半疑というよりは9割以上疑いながら話し合う。傍から見たら話し合いというよりケンカに見える気もしながら。
「お遍路参り――してみる?」
「けど、宗教ちゃうやん――。」
「宗教ちゃうっちゅーことはやな、うちらが死んでもおかんには逢われへん言うことやで? こないなくだらん手紙でも信じてみる価値、あるんちゃう?」
「あるかなぁー――ちゅーかそもそも、『かけがえのない財宝』て、何やねん。」
「それがわからへんから気になるんやんか。あんたが行かへんねやったら、うちだけでも行くで?」
「うーん――姉ちゃんが行く言うんやったら、うちも行くわ――気乗りはせえへんけど――。」
「よっしゃ、ほな明日から行くで!」
「え、ちょっと待って、遺品整理はどないするん?」
「そんなん後でもいつでもできるわ、今はこれに賭けてみるしかあれへんやろ。」
――おとんのことは嫌いではない。たぶん、うちはおとんに似とるんや――。
そないなわけで、クリスチャン姉妹のお遍路参りが始まることになった。
けど、無理がたたったんやな。半年ぐらい前から過労で入院して、そのまんまあっさり逝ってもうた。
「――誰のせい、なんやろな。」
葬式とかの準備をしながら独り言のつもりで溜息吐きながら言うてた。したら妹に聞こえてたらしくて、
「そんなん、おとんのせいに決まっとるやん。あんなおとん、おってもおらんでも迷惑や。」
妹の方はおとんの記憶がほとんどない。憎しみしかないんやろな、とうちは思う。けど、おとんはそないに悪い人ではなかった。旅に出ては珍しい土産持って帰ってきてくれてたし――。
「まぁせやけどアレやな、葬式言うてもめんどいだけやな。うちらクリスチャンやから仏教のことわからへんし。」
「おかん、なんでうちらのことミッションスクールに入れたんやろな。仏教徒やのに。」
妹と2人、ぶつぶつ言いながら坊さんに言われるままに葬式やら初七日やら四十九日やら、なんやようわからんこと盛りだくさんで、おかんが死んだ哀しみも何もなかった。
「姉ちゃん、そろそろ遺品の整理とかしなあかんのちゃう?」
あぁもう、ほんまめんどくさい! 実の母親が死んどいて言うのも何やけど、なんもかんもめんどくさい! ちゅーても、やらんわけにもいかんし。
「うん、まぁ、ええ加減やらなあかんわな。おかん、なんでもかんでも置いてあるからしんどいで。」
「わかるわー、捨てられへん病気やわおかん。おとんのことも捨てられへんかっただけちゃうんかいな。」
「はぁー――おとんの悪口は置いといてやな、とりあえずデパートの紙袋やら何やら、どう考えても要らんモンほかしてから要るモン要らんモン分けるで。」
「せやな。」
うちらは無言で押入れの中身をがさごそ漁る。ほんまに要らんモンばっかりでうんざり――してきた頃に、奥の方に大事そうに隠してあった宝石箱を見つけた。
「――なんやこれ?」
「開けてみる?」
「まぁ開けてみんことには何入っとるかわからんしな。」
宝石箱の中身は、紫水晶と、おとんからの手紙やった。
手紙の内容は、お遍路参りをすることでかけがえのない財宝を手に入れることができる――いくらうちらがクリスチャンでも騙されへんわ、そない言いたくなるようなアホらしいモンやった。
うちも妹も半信半疑というよりは9割以上疑いながら話し合う。傍から見たら話し合いというよりケンカに見える気もしながら。
「お遍路参り――してみる?」
「けど、宗教ちゃうやん――。」
「宗教ちゃうっちゅーことはやな、うちらが死んでもおかんには逢われへん言うことやで? こないなくだらん手紙でも信じてみる価値、あるんちゃう?」
「あるかなぁー――ちゅーかそもそも、『かけがえのない財宝』て、何やねん。」
「それがわからへんから気になるんやんか。あんたが行かへんねやったら、うちだけでも行くで?」
「うーん――姉ちゃんが行く言うんやったら、うちも行くわ――気乗りはせえへんけど――。」
「よっしゃ、ほな明日から行くで!」
「え、ちょっと待って、遺品整理はどないするん?」
「そんなん後でもいつでもできるわ、今はこれに賭けてみるしかあれへんやろ。」
――おとんのことは嫌いではない。たぶん、うちはおとんに似とるんや――。
そないなわけで、クリスチャン姉妹のお遍路参りが始まることになった。
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